自分でも反省してます。いくら部活後でお腹が空いていたとしても、人の物を勝手に食べちゃいけなかった。ましてや丸井の食べかけのポッキーを勝手に食べるなんて、恨まれても仕方ないことくらい少し考えればわかることでした。



「…で、お詫びに丸井君のロッカーの掃除をしているわけですか」
「なんで今日に限って真田がいないんだろう…」
「幸村君のお見舞いに行ってしまいましたからね」
「…私運悪すぎ」



自分の行いは反省しないのですか、と柳生は笑った。疲れた脳や体には甘い物が1番。ヘトヘトになって座り込んだ目の前にいちごポッキーだなんて素敵なものがあれば誰だって思わず飛びついてしまうものでしょう?そんなことを柳生に必死に訴えても、賛同を得るどころかますます可笑しそうに眼鏡を抑えるだけだった。 しっかし丸井の野郎ロッカーをゴミ箱かなんかだと勘違いしてない?お菓子の空き箱、パンの袋、多分どっかの女子が差し入れしたお菓子かなんかのラッピング(手作りかよ!)、ペットボトル……絶対明日真田に言いつけてやる。



「…で、なんで柳生は帰らないの?」
「さすがにこんな真っ暗な中さんをひとりで帰らせるわけにはいきませんからね」
「あら、さすが紳士」



柳生とこんなに普通に話せるようになったのはわりと最近のことかもしれない。それまでの2年間何をしてたんだと言われても、別にただマネージャーとしてそれなりに仲良くしてたつもりなのだけど。それでもなんだかここ最近、なんとなく柳生の表情が柔らかくなったような気がしたんだ。それは別に柳生が変わったとか何かきっかけがあったとかそういうわけではなくて、きっとこれまで私が勝手に作り上げてしまっていた壁のようなものが少しずつ低くなっているからなんだと思う。そんなことを先日ポロッと仁王にこぼしてしまったら、奴は「良かったのう」とだけ言ってニヤッと笑っていた。



「はい終了!あとはゴミ捨てて帰るだけ!」
「ではそれは私が捨てて置きますので、さんは着替えていてください」
「いいよいいよ!なんかもう面倒くさいからジャージで帰るし」
「ほら早く、学校も閉まってしまいますよ」



私からゴミ袋を奪った柳生は止めるのも聞かずにさっさと部室から出て行ってしまった。呆気にとられながらもこうなってしまったら仕方ないとロッカーから制服を取り出す。ジャージを脱ぎながら、自分の手からゴミ袋が奪われていく少し強引な力をふと思い出した。柳生には不似合いな振る舞いになんだかそわそわ落ち着かないものを感じながらも、とりあえず早く着替えてしまおうと何かを振り切った。焦って着替えたからか、少し暑い。ちょうどブレザーを羽織ったところで「さん、終わりましたか?」と柳生が戻ってきた。



「さてと…さん、何が食べたいですか?」
「へ?」
「つい丸井君のお菓子を盗んでしまう程お腹が空いているんでしょう?」
「いや、それはまぁ…」
「たまにはごちそうしますよ」



柳生は目を細めて静かに笑う。やっぱり違う、柳生だって変わったはずだ。こんな優しい笑い方をするなんて知らなかった。こんなに一緒にいたのに。みんなは知っているのだろうか。私だけが何も知らず彼の良いところを見過ごして薄っぺらな付き合いをしてしまっていたのだろうか。それはそれでとてもショックだ。勝手に項垂れる私を見る柳生の目は、なんだか困った子供を見守るお母さんみたいだった。どうして今日に限って次々と新たな発見をしてしまうのか、それはいくら考えてもわからない。それでももっと柳生と一緒にいればまた更に新たな発見をしてしまうのでは?と慣れない好奇心だけが育っていく。それが意味するものに気付く一歩手前、いつのまにか空腹に耐えきれなくなった私の頭は大好物でいっぱいになっていた。



「ねぇ、柳生はカレー嫌い?」
「好きですよ」
「じゃあカレー!」



意気揚々と部室の鍵を閉めながら、柳生が待っていてくれてよかったと思った。待っていてくれたのが柳生でよかったと思った。でもこれ以上気付くと、きっと私は柳生と目を合わすことさえ出来なくなってしまう。



「今日は星が綺麗ですね」



だから、今はこれで十分。







(18.3.13 加筆修正)

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